by Marcy Eckhardt
A Novel Exploring the Challenges and
Triumphs of Running an Animal Shelter


リップル エフェクト
(波及する現象)
マーシー・エックハルト著
アニマルシェルター運営における課題とその克服を描いた小説


投稿者の解説)
「リップル エフェクト」
波及効果、連鎖反応と訳せますが、ここでは具体的に以下のことを指しています。

1つの悪い噂(特に、どこそこのシェルターでは動物を殺しているらしいという噂)が人づてにどんどん連鎖的に広がってしまいます。
作品内のシェルターは、そうしたネガティブな波及効果にスタッフがピリピリし、常に細心の注意を払っています。シェルターに対して市民の心が離れてしまい、譲渡数や寄付金が減り、処分ゼロ運動の圧力によりたちまち運営が立ち行かなくなるからです。
役員会がNo-Kill(処分ゼロ)を看板として掲げようとしたのも、「私たちは処分しません」と地域に向けてアピールするためのものでした。

また、現在の米国のシェルター事情として、動物の受け入れを制限できる limited-admission(リミテッド・アドミッション) shelterと原則すべての動物を受け入れる open-admission(オープン・アドミッション) shelterが存在すること、2005年以降カリフォルニア州アシロマで開催された国内の巨大組織間の合意「アシロマ合意」により、シェルターに収容される動物の選別と処遇がより明確になり始めたことなど、日本とは違った背景やシステムがあることを念頭にご一読いただくとレビュー記事も興味深く感じられるかもしれません。

米国は日本よりも約20年前に処分ゼロ運動が始まり、動物の処分云々に収まらずシェルタースタッフの自殺、運動家による抗議の自殺、無理やり譲渡した犬が市民を殺傷する事故が発生しています。
更に2005年以降、1年間にパピーミルから救出された数とほぼ同数の約4,000頭の犬猫が破綻したNo-Kill shelter、愛護グループから警察に押収・保護されています。
こうした米国の深刻な状況と約20年の流れから、日本国内でも荒れ狂っている広島発の処分ゼロ運動の危うさ、引き取り拒否による昨今の行政の在り方などを、皆様が今一度再考していただくことを願って取り組んだものです。


Animals 24-7(米国WA州)は世界中の動物保護活動に従事する人々、獣医師、団体運営に携わる多くの専門家に支持されている動物問題専門のNPOメディアです。翻訳の掲載にあたり、米国Animals 24-7に掲載許可を取得しています。

> 英文はコチラ(English)
SEPTEMBER 9, 2017
Reviewed by Merritt Clifton
2017年9月9日 メリット・クリフトンによるレビュー
おそらくAnimals 24-7の読者のほぼ100%に近い方々が、アニマルシェルターに勤めたりボランティアとして関わったりしたことがあるでしょう。ですからほとんどの方が、長年シェルターに勤めコンサルタントでもあるマーシー・エックハルト氏の著書「リップルエフェクト」の登場人物に自分を重ね合わせずにはいられないか、あるいは少なくとも似たような人物を心に思い浮かべることでしょう。

私がそうであったように、「リップルエフェクト」は、何度か腰を下ろして手に取ればすぐに読めてしまいます。そしてこの本が、私たち、すなわちアニマルシェルターのことを知り尽くした人々による、私たちのための、私たちについて語られた小説だと感じることでしょう。シェルターとの関わり方は様々であれ、しばしばシェルターのやり方を声高に批判し、それでいてその背景を全く理解しない、私たちとは正反対の人々のことではありません。
Omni-present tension
偏在する緊張感
「リップルエフェクト」は、シェルターのスタッフと一般の人々との間に常に存在する緊張感について書かれた本です。No-Kill(処分ゼロのこと。以下はノーキル)を推進しようとする活動家や寄付者からの激化する圧力によってその緊張感は増しています。不妊去勢手術、譲渡、里親、その他のプログラムによってノーキルが現実的な選択肢となるのに十分な水準まで動物の引き取り数が減ったかどうかとは関係なく激化しているのです。

もし運良く、エックハルト氏が一般の人々やシェルター経験の無い活動家たちの間に幅広い読者層を得ることが出来ていたなら、さらに、もし「リップルエフェクト」が大ヒット映画になっていたなら、「キル」と「ノーキル」を巡る争いを大いに緩和することができたでしょう。ノーキルシェルターでさえ、(条件付きの引き取りをしない限りは) 健康や危険行動といった理由からしばしば安楽死をさせなければならないことや、オープンアドミッション型のシェルターを持たないコミュニティでは条件付きの引き取りは現実的ではないこと、またこうした状況下においてもシェルター職員の圧倒的多数が、動物を殺さないように全力を尽くしていることがはっきり伝わるからです。
“Why we must euthanize”
「安楽死が必要とされる理由」
1979年のピュリス・ライト氏のエッセー「安楽死が必要とされる理由」がどこのシェルターの壁にも目立つ形で掛けられていた時代は、今やはるか遠い昔のことです。1950年代にガス室を発明したレイモンド・ナラモア氏によるシェルター殺処分の必要性に関するさらに重々しいエッセーが掲げられていることもありました。エックハルト氏は当時の考え方や状況については、ほんの少ししか触れていません。

アニマルシェルターで働き始めてちょうど20年目に入った年、エックハルト氏は「リップルエフェクト」(2012)を執筆しました。ライト氏(1927-1992)が亡くなる2年後には彼女はシェルターでの仕事にすっかり夢中になっていました。それはちょうど、フォー・コーナーズ保留地の近くの「リップルエフェクト」の舞台からそう遠くはないアリゾナ州フェニックスで、第1回ノーキル会議(1995年)が開かれる1年前のことでした。フォー・コーナーズというのは、アリゾナ州、ユタ州、コロラド州、ニューメキシコ州の境界線が交わった周辺地域のことです。

当時のアニマルシェルターは安楽死室の整備に力を注いでいたのですが、現在では譲渡のための施設整備や「Save Rate(救出率)」を高めることに主眼を置くようになってきました。ただ救出率は個々の動物について「救えるか、救うべきか」ということから離れて独り歩きすることもあります。
The nature of shelter work
シェルター業務というもの
シェルターの文化が変化したとはいえ、その業務の性質からして殺処分は避けられない場合があり、殺処分の件数が減ったとしても職員のストレスが減るわけではありません。ピュリス・ライト氏の時代、シェルターでは安楽死の熟練技術者には高い地位が与えられました。そうすることで、捕獲されたり飼育放棄された犬猫を殺処分する彼らに対して、外部の人々がしばしば示した、そして今でも示す反感や嫌悪感の埋め合わせがなされていました。

当時、保護期間を必要最低限にとどめ大規模な殺処分を行うことで、安楽死の技術者たちは手順を機械化し儀式化することができていました。(安楽死行為そのもののストレスから)距離を置くことができたのです。今日では何週間、あるいは何ヶ月もの保護期間の間に、自分が殺処分する犬や猫に情が移ってしまうことがよくあります。エックハルト氏の描く架空のシェルターでもそうです。
The cast
配役
以下が「リップルエフェクト」に登場する中心人物たちです。
シェルター長:多くの人がそうであるように、彼女も見習いとして働きながら仕事を覚えました。ノーキル推進運動に困惑しています。 

シェルター上級技術者:
安楽死のストレスで疲れ果てています。

熱心な見習い:
少しずつ学習し、シェルター業務に適応していきます。

事務局長:
実力で出世しましたが、今ではシェルターの資金調達や、運営に没頭するあまり、スタッフのニーズを無意識に見逃してしまうことがあります。 

役員になったシニアボランティア:
「ノーキル」への転換を図ろうと、事務局長を追い出し自分がその座に就こうと企んでいますが、「ノーキル」についての知識は、ほんの数回会議に出席したり、ブログを読んだりして得ただけです。

このシニアボランティアは、「リップルエフェクト」の中では悪役のようですし、物語に登場するシェルター長からは、そうした目で見られています。しかし、どう見ても彼女は献身的であり、やる気もあって、ボランティアをスカウトするだけの能力があります。役に立ちそうなアイデアを提案することもあります。シェルター中のスタッフのあとをつけまわし、あらを探してメモする癖は確かに問題があります。しかし腹を立てたスタッフの方も、 (彼女に対する)批判を爆発させずに自分たちの行動について説明する機会はあるのに、ことごとくその機会を逃してしまっているのです。
Contradictions true to life
現実社会でも見られる矛盾(した言動)
「リップルエフェクト」がかなり現実に則していると感じるのは、シェルター長や活動家たちの態度の端々にみられる言行の不一致です。登場人物はすべて言うこととやることが一貫していません。平気で肉を食べるのに動物の救済に没頭するシェルター長やスタッフたち。自分はレスキューだと信じているアニマルホーダー。そしてノーキルを主張し役員でもあるずる賢いボランティア。彼女はシェルター業務に対して最初に2つの批判をしていますが、そのどちらもピュリス・ライト氏(「安楽死が必要とされる理由」の著者)の信条に由来しているのです:「譲渡を促進させるために特定の動物を宣伝したり切り捨てたりすることは、動物の存在価値を下げる」

矛盾しているようですが、どちらの手法も、当時ノースショア・アニマルリーグ(1969年からノーキル)のシェルター長だったマイク・アームズ氏によって紹介されたものでした。2000年以降、アームズ氏はヘレン・ウッドワード・アニマルセンター(ノーキル)の会長を務めています。
Skulls & bones
頭蓋骨と骨
おそらく最も突飛であるにもかかわらず、それについてブログで触れたことのあるエックハルトでさえも気がついていない矛盾は、動物の死骸を郡の埋め立て地に廃棄するのではなく火葬させることで、事務局長が安楽死によるスタッフのストレスを軽減しようとしていることです。火葬の場合、燃え残った頭蓋骨や大きな骨をスタッフが手作業で砕かなくてはいけません。ぞっとするような仕事で、生きた動物を思い出させて危険です。

安楽死に携わるストレスを専門に診る心理カウンセラーで、 この(火葬・粉砕への)業務変更を勧める人はいません。手作業による粉砕の代替手段としてエックハルト氏が思いつくのはコーヒーミルだけのようですが、これは耳障りなほど音が大きく頻繁に使用するには実用的ではありません。

とはいえ、 人の火葬場で使われているのと似た、粉砕音が静かで粉塵排出機能のある機械を作れば、廃品置き場に詳しい機械好きなボランティアに割り当てられる、比較的単純で費用の掛からない雑用となるかもしれません。
No romance
ロマンス要素無し
「リップルエフェクト」は欠点のない作品ではありません。流れるような文体ではありますが、有り得そうもないほど長い会話文が登場する章があります。実際それらは、エックハルト氏のウェブサイトのブログ投稿に類似した、アニマルシェルターの様々な側面について説明した短いエッセーとなっています。

しかし、私生活をほぼ度外視して仕事に情熱を傾ける若い女性登場人物たちについて、そのロマンチックな要素を何も入れずにおもしろい小説を書くという難題をクリアしたという点で、エックハルト氏は評価できます。
Rescued dog attack
救助した犬による攻撃
「リップルエフェクト」ではピットブルについては、かろうじて言及されている程度です。エックハルト氏は物語のクライマックスの重大局面ですり替えを行っている印象を受けます。シェルター長が、危険なふるまいをするため殺処分すべきだと勧めるジャーマン・シェパードが、役員会の介入によってノーキルシェルターへ移され、シェルター長の警告にも関わらず里親に預けられて、子どもをひどく傷つける場面です。

確かにジャーマン・シェパードはそうした事故を時折起します。しかし、シェルターから新しい家に引き取られ人を傷つける犬は、他のすべての犬種を合わせたものよりもピットブルであるケースが約10倍多いのです。これはシェルター出身の犬による攻撃について、アニマル24-7が所有する記録によるものです。 エックハルト氏が解明しようと願う対立は、ピットブル支持者による特定犬種擁護運動によって激化しています。

「リップルエフェクト」は、辞職したシェルター長と事務局長による情熱的なスピーチで役員会とコミュニティが我に返るという最大の山場を迎え、物語を終えています。そのようなことは現実にはまず起こることはないのですが…
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